そこで、目が覚めました。
しばらく身動きする事が出来ませんでした。
自室の天井をぼうっと見つめながら、見たばかりの夢の残滓がまとわりつく全身をただ横たえたままにするしか術はなかったのです。
自分の心臓の音がうるさい程に鳴っていました。
夢の続きを自分は生きているのではないかという危惧が、僕を更に深みへと陥れようとします。
そんな事はない、あれは、ただの夢だった。どうしようもなく趣味の悪い、出来の悪い悪夢に過ぎない。
そう言い聞かせ、緩慢に身を起こそうとして。
途端に僕はある事に気付いて愕然としました。
身体に、口元に、あの人の感触が残っている――!
激しい動悸に、顔中から汗が噴き出します。
ぽた、と涙が流れていくのをそのままに、震える身体を自ら抱き締めました。
なんてひどい夢だったのだろう、そう思いかけ、首を振ります。
夢などという、生易しいものではありませんでした。あれは、在ったかもしれない僕たちの果ての世界での出来事なのです。
そしてきっと、あの世界は今もおそらく、続いている。
僕は顔を覆いました。
あの世界にはもう僕はいない。けれどあなたは生き続けている。
それを思うと言いようのない感情が後から後から溢れて堪らなかったのです。
開けた窓から見えるのは、まだ朝の声も遠い夜の街並みです。
僕は風に吹かれながら、さんの事を考えました。
あの世界に置いてきてしまったあなたの事を。もう会えないあなたの事を。そして本当のあなたの事を。
「さん…………」
僕は、その人の名を口にしました。きっと、あなたには届かないでしょう。
ひとつひとつの音が、夜の風にさらわれ消えていきます。無性に、あなたに会いたかった。
流れる涙もそのままに、僕は目を閉じました。
どうか、次に会える日のあなたが、この世界のさんでありますように。
僕はそう祈りながら、声を押し殺して泣きました。
始まったばかりの夏の夜が佇む中で、ただ、ひとり。
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